スウィーテスト多忙な日々

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そうだ、やどろう。


ドミトリーに泊まったことはありますか?

私は日本の端の、南国に住んでいる。たまに友人などが県外から遊びに来ると当然酒を飲みに行くのだが、その場合大体が都心部で店を探すことになる。
遅くまで飲むのが当たり前なので公共交通機関はあてにできず、行き帰りにタクシーを利用するとなると飲み食いする倍の値段が移動賃にかっさらわれてしまう。
必然的に車で店へ向かうことになるのだが、そうなると帰りはどうするのかという問題が薄暗い路地から苦い顔で覗いてくるのだ。

 

そういうわけで初めてドミトリーを利用してみることになった。
ドミトリーというのはバックパッカーのような放浪者が集まって軒先のベンチで酒を喰らいながらギターを弾き流し、夜が深まると畳敷きになっている小上がりの広間で雑魚寝をするという恐れ知らず専用施設だ。

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誰かの偏見

 

なかなか手の出しづらい場所だと思っていたが宿泊予約のサイトを見ているとホテルに比べたそれはべらぼうに安いのだ。1500円だ。1500円というとちょっと高い1000円だ。
ページ内を舐めるように見ても
「壁はベニヤ板で屋根はブルーシートを二重にしてあるので安心です」
というような記述は無いので、大袈裟だが人生経験の一つとして体験してみようと思いその宿を予約し、まさに今その寝床にいる。

 

このドミトリーは内外装共に非常に清潔感があり、ロッカールームもシャワールームも完備されている。
肝心の寝床だが高さ約1.5m、幅約1m、奥行き約2mの上下二段になった半個室がずらりと並んでいて最低限のパーソナルスペースは保たれる形になっている。

 

電気を消して目を閉じると、左隣からはクレッシェンドのいびきが、右下(下段のベッド)からは濡れたビーチサンダルが擦れるような奥歯のスクラッチが聞こえてくる。

 

これだよこれ。顔も知らない他人の生きている証が耳栓を通り抜けて脳を叩く。
廊下を歩くサンダルのプラスチックチックな音がアクセントを加える。
家の窓越しに不審者と目が合った時と同じ早さで仕切りのカーテンを閉じる音。
強く主張はせずとも堅実にペースを保つ寝息。あ、今呼吸止まってる。

 

気がつくと楽しかったオーケストラは止み、朝を迎えていた。
朝のシャワーを浴び11時にチェックアウト。
そこら中にガムがこびりついたデコボコのアスファルトと比べずとも大方満足のいく宿だった。

経験値を稼ぐつもりが自分の無知を恥じる結果となってしまった。ドミトリーに敬礼。
戒めとして、コインパーキングまでの道のりをかかとだけで歩いた。