スウィーテスト多忙な日々

スウィーテスト多忙な日々

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女ってさぁ……

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田中みな実が悩んでいるらしい。

真面目で努力もできてぶりっこもできて美人で、付け入る隙のなさそうな彼女にも大きな悩みが付きまとうなんて、人間はなんて面倒な生き物なのだろう。

女性は女性であるだけで大変だ。産まれた時から「いずれあなたも子を産まなきゃいけないのよ」という使命を課せられる。

 

働き方や生き方の多様性が叫ばれても、やはり生き物としての根本の使命のようなものが、「女性」の名札を外すことを決して許してはくれない。

 

「女の人って大変だよねぇ」と私が呟くと、隣の席で談笑していた娘盛りを少し過ぎたぐらいの女が反応した。

「そうなんですよ。やることが多いし、敵も多いんです」女はよく手入れされたサラサラな髪に指をかける。「化粧だったり、肌の手入れにも気を遣わなきゃいけないじゃないですか」

 化粧、自己管理、仕事、恋愛、出産、育児、井戸端会議。女性が女性であるためには、あらゆるハードルを常に飛び続けなければいけない。

 

 私は罪を自白するように、寝て過ごした週末のことを話した。

「この前なんですけど、ベッドに仰向けになって、天井のシミを数えてたんです。一時間ぐらい。そんな無駄に時間を消費しちゃって、女性の方々に申し訳ないです」

「いいなぁ。私は仕事か家事に時間の大部分をとられちゃって、睡眠時間を削ってストレッチするんですよ」

 やはり大変だ。頷きながら、もう一人の女に視線を向けた。

「私は毎日いろんな壁にぶつかってます」

 こっちはこっちで大変だ。

「壁抜けバグって知ってますか?ゲームとかでキャラクターが壁にめり込んじゃって、別の場所に飛ばされたりするあの」

 話の流れが変わった。

「ああ、はい」

「時間帯を変えたり、着る服を変えたりして、同じ壁に何百回もぶつかります。いろんな方法を試すんです」

 

 女性がどうこうという話ではなくなり、私は表情づくりに試行錯誤しながら彼女の話を聞いた。

「たまに成功したりして、初めのうちはただ日記帳に書いているだけだったんです。だけど独り占めするのももったいないと思って、ウェブサイトを立ち上げて……」

 女は自分が作り上げたというそのサイトを表示して、私に見せた。

『ワザップ!』

 私は口をあんぐりと開けた。彼女は一時代をけん引した水先案内人で、紛れもなく私たちを導き救った神だったのだ。

 

「現実世界にもバグは現れます。見えない壁や、景色の抜け落ち、ループ現象……。あ、あなたの腕にもバグが」

 女は私のテーブルを指さした。

 手元を見ると、私の左手は独断でノートに文字を書き連ねていた。

『れれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれ……』

 

 私は田中みな実や女性のことを考えている場合ではなくなってしまった。

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