スウィーテスト多忙な日々

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満喫ゾンビ 前編

 

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ペチャペチャ、ニチャニチャ
チュッチュッチュッ


マンガ喫茶というものは、食事を注文するとニ・三時間だとか、あるいは無制限に雑誌を楽しむことができる。
Mangar(マンガー)にとってはとても助かる商売だ。
そういう、食後長時間居座るシステムなので、自然と奴らに出会う機会が増える。いわゆるクチャラーというやつだ。


口の中で縄跳びをしているような、跳ねるようなリズムが耳に心地いい。悪い。
隣に座ったいかにも人畜無害といった容貌の男が、食事を始めると突如ゾンビになってしまう。ごはんゾンビ。
彼らが未だに滅びていないのは、大した天敵がいないからだ。黙って指をくわえているヤツは、犠牲になるしかない。
奴らに正論は通じない。なにせゾンビ。


火炎放射器で焼き払えば一撃ではあるが、「食事中以外は人間」という厄介な生態をしているので、一応人権がある。
では野放しにするしかないのか、と諦めることはない。


ムツゴロウさんがいる。


 隣に座る五十がらみの男の前に、チキン南蛮定食が運ばれてきた。ゾンビへの変貌を予感させる。
「いいですねぇ。ここのチキンは硬いですからねぇ筋が歯に挟まりますよぉ」
 ムツゴロウさんは頬を持ち上げて、目を細める。森に分け入り、珍しい鳥を待ち望むような目だ。


 男はまず、みそ汁をかき混ぜて口に運ぶ。箸に米がこびりつかないようにと考えているのかはわからない。
 次に、南蛮ソースがたっぷりとかかったチキンをひとかけ。追ってご飯を入れる。
 モグモグモグ。

 

 

つづく

 

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