おう、ええやんええやん、やったれやったれ
「ひえー!」
私は思わずそう口走ってしまった。
マサトシが「やりたい事が百個ある」と言ったからだ。
「お前!なんか怪しい宗教に入ったんじゃないだろうな!」
思わず口走る。
「そんなんじゃないよ」
マサトシは余裕の笑みを浮かべた。
あの大谷翔平が書いた、「目標達成シート」のようなものだろうか。
「新月の日に満月を見ようとするなよ!」
私は完全に錯乱して言った。完全に錯乱している。
そもそもマサトシはすでに数え年で百八十歳だ。百八十歳といえば、ちょっと少ない二百歳だ。
「百といっても、そんなに難しい事ばかりじゃないよ」
マサトシは遠慮気味に答えた。
「例えば?」
「月に行く、だとか」
「おいおい」
「F1レースに参戦する、だとか」
「ちょっと待てよ」
「背中で殺気を読む、みたいな」
「いい加減にしてくれよ」
どれもこれも、聞いているこっちの気が滅入るようなことばかりだ。いや、もしかすると、やる気次第でどうこうなる事もあるのかもしれないけれども。
絶句する私に、マサトシは言った。
「無理だと思うから無理なだけで、無理だと思わなければ無理じゃないよ」
これは。
完全にアレだ。
「お前!アレだろ!」
私は唾と言葉を5:5の割合で飛ばす。唾の方が5で、言葉が5だ。
「アレじゃないよ」
マサトシは完全に落ち着いた声で返す。
「お前、念力でスプーンを曲げるって言ってるようなもんだぞ!」
「それは無理だよ」
「あぐらをかいて空を飛ぶとか!」
「あの人じゃないんだから」
「ボンベ無しで深海に潜るような!」
「それはできるよ」
それはできる。
マサトシはウミガメだからね。
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