決戦は金曜日
刈りはまだ終わっていない。
洗濯物を干しながら、
鈍い色の空を背景に、高く伸びた竹がゆらゆらと風に揺れる。
二週間前にとりあえずの終末を迎えた緑との攻防は、
ここは俺達のモノなんだ。本当の侵略者はキミだろう? 深みや形の違うたくさんの緑が、
やつらも、撤退するつもりは毛頭ないらしい。
お別れは済ませてあるかい?
私は物置からギラリと光る新品の鎌を取り出した。
路地に出ると、手始めに、塀から溢れたしぶといツルを刈り取っていく。お目こぼしとなっていた、境界線上の脱走兵だ。
今の時代、
我が家の真隣に茂る雑木林に近づくにつれ緑はその濃さを増し、
雑木林は、この争いにおける敵軍の陣地のようなものだ。
そこから伸びる枝葉やツルは、こっそりと、
私は今まで以上に徹底的に鎌を振った。
一心不乱に鎌を振ること数十分。ついに侵略の手は途絶えた。
やった。やったぞ。喜びに手が震える。
そしてその瞬間、ふと我に返った。
我に返った?
「我に返った我」は、本当の我なんだろうか?
いや、違うのかもしれない。
「我を忘れた我」こそが、本当の我なんじゃないだろうか。
四十数億年を超えた今になっても、
握りしめた鎌に目を落とす。
「俺はお前だ」
鎌はそう言った。
「この、カマ野郎!」
足元に転がる千切れた大きな葉は、今際の言葉を残した。
それは、ちょっと意味が変わってくるじゃないか。そう呟いたが、
私は服に付いた緑の破片をはらい、内股で家に戻った。
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