スウィーテスト多忙な日々

スウィーテスト多忙な日々

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顔の見えない相手から金を受け取るのさ


我が家の部屋の隅でホコリを被っているあれもこれも、どこかの誰かが探し回っているものだ。
革靴が一万円で売れたり、コーティングの剥がれたサングラスが五千円で売れたりする。その日アプリにメッセージが届いたのは、新しいモデルに買い替えて以来クローゼットの奥に仕舞いっぱなしだった、パソコンのルーターに関しての問い合わせだった。

「購入希望です! 3,000円にお値下げ可能でしょうか? 即決で購入したいです!」
名前はノジマ(仮名)。文脈やアイコン画像から察するに男だろうか? よくある値下げ交渉だ。私はすぐに返事を返した。

「『即決』という言葉の意味をご存知でしょうか? 値下げ交渉をした時点でそれは即決とは呼べないのではないでしょうか」
と送りたい気持ちをぐっとこらえて、「申し訳ありません。」とだけ返した。
売上が千円下がるだけ。そう考えると大したことはないけれど、値段設定を考えた上で値切ってみてはくれないか。突然やってきた相手に25%まけてやる店なんてないだろう。
しかし、これはあくまで個人間の売買だ。顔も見えないから、とりあえず安い値段をふっかけるなんて簡単だ。安く買えればラッキー。ノジマの言いたいことはわかる。
「申し訳ありません。」は、それらをすべて含んだ拒絶だった。

大抵、値下げ交渉に応じない場合は売れない。だから私は次の手も考えている。
ノジマからの返事は、三分と経たずに返ってきた。
「じゃあ、このまま購入します。」

買うんかい。あまりのあっけなさに拍子抜けしてしまう。
失礼な奴だと思っていたけれど、こうなると途端にかわいくなる。いいんだよ。ちょっとまけてあげるよ。緩衝材はわたあめにしてやろうか。
私は予定通り、少額の値下げをしてあげることにした。
「せっかくお問い合わせいただいたので、3,500円に値下げさせて頂きます。」
これでWIN―WINだ。きっとノジマも泣いて喜ぶだろう。

次のターン。ノジマノジマらしさを見せつけた。
「もう少しお値下げしてほしいです。。」
こいつ……。どこまで行ってもノジマだ。
私は「ぶん殴ってやろうか」と送りかけて、「ぶん殴ってやりましょうか」と書き直し、「相手のことを考え丁寧なコメントを心がけましょう。」と書かれた注意書きを読んで気を取り直した。

結局、私はそれらの意味を込めて「ごめんなさい。」と返事を送った。
そして、約束通り価格を下げた。

それから五分後。無事に商品は売れた。ユウスケに。

ユウスケぇ。

 

 

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