信じられないことに、もう一年の半分が終わってしまう。
信じられない。
生きていれば時間は勝手に過ぎていくから、それは当たり前のことなんだけれど、やっぱりどうしても「そりゃちょっと早すぎだよ」と焦ってしまう。
元旦に生まれた子供はもう歯が生え始めて、離乳食を食べ、早ければハイハイをし始めるらしい。さらに数か月経つと、言語を理解して、なんと自ら喋り出すというのだから恐ろしい。地球が赤ちゃんに乗っ取られる日もそう遠くないのかもしれない。
そうやって、赤ちゃんが着々と侵略の地図を描いている中で、私自身は同じように成長できているんだろうか。できていないとしたら大問題だ。
人間はそれぞれ個々に、活動期限が決まっているらしい。それが五十年後の人もいるし、二十六分後の人もいる。私は九十二歳と十一か月が期限らしいので、九十三歳の瞬間に鳴る祝福の鐘を聞くことはできない。
単純計算で、今までの人生をあと二回生きることになる。そんなにいらないよなぁ、と思う。今は。
普通に生活していると色々と知らないことがあって、それでも生きてはいけるけれど、気付かないうちに損をしていることはたくさんある。役所に行って話を聞くと、そんな情報を今まで黙ってたなんて……と歯を剥きたくなる情報がたくさんあって、そのうちの一つが活動期限に関する情報だった。
「これですか? 活動期限ですね」
金城と名札に書かれた無愛想な男は、さも当たり前のように答えた。
市役所の福祉課で手続きをしていた私は、氏名の欄外に印字された「92」という数字を見つけた。金城が言うに、それは活動期限というらしい。活動期限です、と言われても……。
「何の活動期限ですか? 単位はなんですか? これは長いんですか?」
あまりにも説明不足なのですこし腹が立って、私は思い浮かんだ疑問を一気に投げつけた。
「貴方自身の活動期限です。単位は歳です。割と長いんじゃないでしょうか」
金城は寸分もひるまずに、全ての回答に答える。こいつ、慣れてるな。もしかすると、銀城から出世して金城になったんじゃないか?
しかし、私自身の活動期限とは一体どういうことだろうか? 単位が歳ということは、九十二歳。それが?
「貴方が生きていられる期限です。ちょっと良くない言い方になりますが――」金城は少し声を潜めた。「寿命です」
「はぁ?」
私は当然の反応をする。当然だ。
「寿命ってそんな。そんなの勝手に決められちゃ困ります」
「まぁ、決まってしまっているものなんです。国や県が決めたわけでもありませんし、申し訳ありませんとも言えないんですよね」
「誰が決めるんですか! そんな失礼な!」
「誰って、あなたですよ」
「私が?」
「えぇ」
そうだったのか。忘れてた。えへへ。
つまり、人間は全員がどこかのタイミングで、自分の活動期限を自身で決めているらしい。役所の金城が言うのだから多分間違いない。
彼の話によると、開示要求には答える義務があるのだけれど、なるべくは言いたくないらしい。教えたところであまりいいことは無い。死期を知ったおかげで前向きになる人なんて、やはりほとんどいなくて、ナーバスになるのが普通なのだそうだ。
実際、今の自分が望む望まないにかかわらず、九十二歳まで生きると知った今、私の成長速度は急激にスローダウンしてしまっている。このままだと停止して、そのうちすぐに老化に転じてしまうだろう。
頑張ろう。
頑張らないと、頑張れなくなっちゃう。
頑張れなくなっちゃっても構わないけれど、頑張れなくなっちゃった後に頑張るのは結構な頑張りが必要だ。辛うじて頑張っている内に頑張った方がお得だ。
結局、頑張らないと頑張れない。
頑張った結果を得るのは、頑張った奴だけだ。
今週のお題「2019年上半期」
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