スウィーテスト多忙な日々

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三角屋根は魔女の家

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夢の話をしたからか、夢を見た。
舞台は、私の実家のある部落だった。自動販売機も商店もない、商業から見放されたような眠った部落。人が少なくて、昼よりも、夜の方が騒がしい。生き物や自然が生む、気分が落ち着く騒がしさだ。

そこで、私は恩師の後をつけていた。
一体何の用があるのかは、自分でもわからない。とにかく気づかれないように後を追う。それ自体が目的とも言えようか。
狭くて通りの多い路地を慎重に潜み、あるいは大胆に走ってはつかず離れずの距離を保ち、私たちは部落内をぐるぐると回った。

今はどこもかしこもアスファルトが敷かれてしまっているけれど、夢の中のそこは土や砂利の未舗装路だらけで、車がなんとかすれ違えて比較的往来の多い縦の道、南北に伸びる道だけが舗装されていた。ということは、あれは私の幼少期が舞台だったということになる。
幼少期の頃、周りは自然だらけだった。家の裏手に回ると、そこには緑のトンネルがあって、足元は土の道。車が通れるほどの道幅はないので、道には車の轍もなく、水たまりもできないような整っていないようで整った道だ。
トンネルは雨の日の避難所で、トカゲやセミを捕獲する狩場で、隣の小さな森へ繋がる冒険への入り口だった。
私は『となりのトトロ』を見ると、胸が締め付けられるような思いになることがあるのだけれど、それはきっと緑のトンネルのせいだろうと思う。土だらけ草だらけ虫だらけでも、あれは綺麗な場所だった。

恩師は突然振り向いた。
途端に目が合って、彼は何か企んでいるような笑みをこちらに向ける。
あ、そうなのか。
その顔を見てすぐに気が付いた。彼ははなから私の尾行に勘付いていたのだ。意味もなく部落内をほっつき歩いているのも、私を泳がせるためだったのだろう。

「なんで尾行してるのかな?」
恩師は少しだけ威圧感を溶かした笑みを私に向ける。
私はばつが悪くて、彼の問いかけに固まり、黙り込んでしまった。どうして追いかけたのか。理由がないようで、確かにあるようにも思えた。
誰も行動を起こさなければ、夢の世界はスイッチが切れてしまうのだろうか。そこで私は目を覚ました。しばらくぼうっと夢のことを思い返す。
なんで尾行しているのか、か。

 起きてみると、その理由ははっきりとわかる。
 私は恩師のように、あの人のようになりたかったのだ。私が自覚なく追いかけていた誰かは、あの人だった。
 憧れの風景と憧れの人物。その二つが重なり合った夢に、私は嬉しくなった。

「おい、今日、ご飯奢れよ」
 スマートフォンを操作し、恩師にメッセージを送った。
 いい日になりそうだ。寿司でも食おう。

 

 

 

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