ちち、悩む
「俺は何のために生きているんだ」
中山は嘆いていた。
「何のために生きていると思ってたの?」
私は尋ねる。この手の疑問は誰にでも浮かぶもので、
「そんなの考えたことなかった。今まで」
「じゃあなんで考えるようになったのさ」
「お前が気楽そうに生きてるから。
「そんなことありませんわ」
中山は立派だ。大学を出て、
そんな彼に突如降ってきた疑問に、解決策はあるんだろうか。彼の顔を見るに、五分や十分前に思いついた悩みでもあるまい。
「人生の意義というのはねぇ」
勝手知ったるが如く口を開いた。当然二の句は考えていない。
だいたい、人生の意義なんて人によって違うはずだ。
とはいえ、
私はそれらしいことを思いつき、口に出す。
「今の生活のためなんじゃないの?」
「今の?」
「うん。多分さぁ、生き物は生きるために生きているんだろう? そのために人間は進化したんだろう? ほんで中山はもう『子孫を残す』
「いや」中山は頭を横に振る。「ユウスケが産まれた時にはそんなこと考えなかったんだ」
ユウスケは中山の第一子だ。中山の性格を見事に引き継いで、
「ユウスケが産まれてミキちゃんが産まれて、
言葉を重ねるにつれて、
「家族という立派な城を立てたのさ。
中山は険しい顔で唸った。つまりそれは否だ、
「お前は何のために?」
中山が聞く。
今度は私が唸る番だ。息が続く限り唸って、たっぷり間を稼いだ。こんなことは口に出せないけれど、今のところそれらしい意味なんてない。
「おっぱいを見るためかな」
「え?」
「おっぱい。だから、お前と一緒だよ」言いながら、
顔をしかめる中山に、私は持論を説いた。
果たして中山の答えは、私の思った通りだった。
「おっぱいが隠れないなら、お前が目を背けるといい」
「はぁ」
腑抜けた顔の中山に、私はおっぱい禁止令を出した。
それからしばらくすると、中山はもう一人子供を儲けた。
やっぱり男はアホだ。
私は歩き出す。おっぱいという名の未来か、
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