スウィーテスト多忙な日々

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海の見えそうなカラオケスナック 1/2

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自宅から坂を上り信号を一つ越えると、かつてカラオケスナックだった二階建ての建物が左手に見えてくる。

そこは住居も兼ねた店舗で、兄の同級生が住んでいて、私の同級生も住んでいた。コンクリート造りのその建物は一階が車庫で、外階段を上がると店舗の入り口がある。他のどの友人の家とも違う、異質な雰囲気を放っていた。

兄がどうだったのかは知らないが、私の同級生は異性だったこともあり、そのスナックあるいは住居にお邪魔する機会は訪れなかった。

 

通りに面した部分はガラス張りになっていて、今はカーテンが閉じられて中が見えないようになっている。昼はもちろん、夜になっても。

そう、スナックはとうの昔に閉店してしまっているのだ。店主である父親が亡くなり、しばらく経って一家はどこか近くへ引っ越したらしい。

そんなガラス張りの元スナックに、数年前からしばしば人影が見られるようになった。幽霊でも妖怪でもない。ワイシャツ姿の男だ。

彼は、いや彼らは不気味だ。

 

ワイシャツ姿の男が一人や二人いたところで別段違和感や恐怖は覚えないだろう。物件の下見をしに来ただとか、いくらでも理由は思いつくし大したことではない。問題は数だ。彼らは群れでいる。

車でスナックの脇を通ると、ワイシャツ姿の男たちが部屋いっぱいに並んでいる光景が外から見える。それはまるでマネキンの倉庫か出土した兵馬俑のようで、「彼らに意思はないのです」と説明されてもあぁそうか、とすんなりと納得してしまいそうだ。一体彼らは誰なのだろう。何をしているのだろう。

 

  まるで呼ばれるように足を運んでしまったのは、今になって思えばその疑問を読み取られてしまったからではないだろうか。じゃまな村人は人狼に殺される。私は知ろうとしすぎてしまったのかもしれない。

 彼らが世にも恐ろしく謎めいた実験の被験者で被害者だったとは。ある程度の想像を膨らませたうえで足を向けたものの、想定を遥かに超えるミステリーが待ち受けているとは、その時の私には知る由もなかった。

 

つづ<

 

 

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