ナカジマがミユキでナカシマがミカ
買い物帰りに、ものすごく悪そうな車の一団とすれ違った。その中にプリウスが一台交じっていて、私はついつい顔を歪めた。
そのプリウスは白いボディにボンネットだけ真っ黒で、地面についてしまんじゃないかというくらいに車高を落としていて、さらには上から潰されたようにタイヤが「ハ」の字に外に飛び出していた。いわゆる鬼キャンというヤツだ。
せっかく低燃費を求めに求めて作ったモノをあんな風にするなんて、例えばフワフワ触感が売りのシフォンケーキをあえて凍らせてしまうようなものだ。美味しそう。
例えば持ち運ぶものだから本来は小さいままがいいはずなのに、年々大きくなっていくスマートフォンのようなものだ。iphone4SEを出せ。
沖縄県民は水着を着るのを恥ずかしがるから、Tシャツのまま海に入ったりする。その方がエロい。
だいたい、プリウスというのは優等生の乗り物じゃないのか。近頃はドライバーのマナーの悪さや老人による暴走運転の影響で悪しき乗り物のように扱われているけれど、本当はそうじゃないはずだ。お財布に優しい、環境に優しい、そんな乗り物のはずだ。
そんなトヨタの親切を、あんな風にバカみたいに裏切りやがって。バカ。
中島美香は歌っていた。
泣いたのは僕だった、と。「ORION」という曲だ。
今になってようやく分かったけれど、僕というのはきっとプリウスのことだろう。飼い主に恵まれないプリウスが、きっと日本のあちこちで泣いているに違いない。
正解がわかったら先生に教えに来なさいと小学生の頃に教わっていたので、私は早速スマートフォンの電話帳を開いた。この中に中島美香の連絡先が載っている、というわけではない。当然だ。
検索バーに「のりお」と打ち込んだ。「ORION」を並べ替えるとそうなる。アナグラムだ。
検索結果に表示されたのは三人ののりおたち。
「大城則夫」
「大野梨央」
「ノリオ@地を這うプリウス倶楽部」
私は大城則夫の電話番号をタップした。
親戚なのだ。
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シバクぞ!!
田舎に住んでいると、ご近所トラブルというものはあまり起こらない。
我が家は一軒家で、移住者が住みつくメリットも見当たらないような寂れた部落なので、さらにトラブルは遠のく。
朝早くから草刈り機の音が聞こえても、子供がはしゃいだり泣き叫ぶ声がずうっと響いていても、あるいは漫画のようにボールが飛んできて窓ガラスにひびが入っていても、特に騒ぎ立てるほどのことではない。家の中にゴキブリが出た時の方がよっぽど感情が乱される。
夜も夜、時計の針は21時を迎えようかという時間である。
ドン、ドン、ドンと、窓の外から何かを叩く音が聞こえだした。何か、というか、これは布団を叩く音に違いない。
土曜日。布団叩きにふさわしい曜日で、ふさわしい晴れた日だった。だけどそれは日中の話。なんでこんな夜中に?
ドン、ドン、ドン、ドン。
音は一向に止む様子はない。一発一発が強く、力を込めているのがよくわかる。
ドン、ドン、ドン……ドン!!
やけに響く。一度止んでも、少しの間を開けて布団叩きは続く。
おい、いい加減にしてくれ。少しずつムッとしてきた。周囲の家みんなに聞こえてんぞ。
ドン!! ドン!! ドドン!!!
ムカつきがどんどん怒りに近づいてくる。
くそ!! なんだよ一体!!
私は窓を開けて、暗闇に耳を澄ました。
ドン!!!!
空気を震わすほどの一発が鳴って、やっと気がついた。
そうか。なるほど。
夏だからね。
今日は夏祭り。そして花火。花火大会だ。
私は庭に飛び出て、缶ビールを開けた。
ガジュマルの木の間からたまに見える花火は、夜にしか咲かない花みたいで、とても綺麗だ。
ガジュマル、邪魔だなぁ。
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