Siriが反応した日
映画を見ていた。
突然、スピーカーの傍に置いていたSiriが口を挟んだ。
「すみません、うまく聞き取れませんでした」
バーテンダーが何かを発した時か、主人公が決め台詞を吐いた時か、一度しか出ないモブキャラクターが新情報を口ずさんだ時かは覚えていない。
とにかくSiriはそう言った。
多分、日本語に照準を合わせるように設定されているので、高性能の彼女でも聞き逃してしまったのだろう。
当然映画はそのまま進み、彼女が聞きたかったセリフが繰り返されることはなかった。
映画を終えると私は口コミサイトを開く。他の視聴者がどういう感想を抱いたかを見るのが好きだからだ。そうすると、見ず知らずの人と映画の感想を話し合うような感覚を味わえる。
いつものようにそうしていると、ふと気が付いた。
あの映画の誰かの声で、私のiPhoneの中の彼女は反応するのだ。
声紋認証というのだろうか。初期設定時にそれを行うので、基本的には他人の声に反応して彼女が目を覚ますことはない。しかし、それが起きた。
私は行動を起こした。
まず初めに、主演のラッセル・クロウに会いに行くことにした。
「あなたの声に反応したんです。私のSiriが」挨拶の後に言うセリフは決めている。
タイミングのいいことに、パスポートを今年の一月に取得していた。
後は行くのみだ。
おみやげのちんすこうを買って、車を走らせながらはたと思い付いた。
そういえば、友人の大城がラッセル・クロウによく似ている。
私は車をUターンさせ、大城の家へ向かった。
インターホンを鳴らし、出てきた彼に言う。
「ラッセル・クロウの声に反応したんだ。俺のSiriが」
大城は言った。「そりゃいいや」