スウィーテスト多忙な日々

スウィーテスト多忙な日々

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2021-01-01から1年間の記事一覧

駆け抜ける魔女とあなたの話

"> "> 近くに魔女が住んでいた。 家の近くを通る国道で、彼女は時折姿を見せる。 片側三車線の車道を魔法のホウキもといママチャリで爆走しているのだ。 通勤の際、資源ごみを捨てに行く際、日用品の買い出しの際など見かける時間帯はまちまちだが、ママチャ…

おもい あのこと あのこと

「ほんと、罪な女よね」 鏡の前で、今日も彼女は呟く。うぬぼれた奴だ。 読んでいた本から顔を上げて、私は彼女に目をやる。 はあ、とため息をついて、彼女はそれ以降黙り込んだ。 我が家には2.5キロの重りがある。 円形で、真ん中に丸い穴の開いたドーナツ…

さるたち しりとり それきり

"> "> 兄が二人いる。 長男は一つ年上。いわゆる年子としごの兄。 次男は数時間上。いわゆる双子の兄。 私たちは表面も内面も仲の良い三兄弟だった。 どこでもそうだと思うが、兄弟というのは喧嘩をする。 男兄弟なら当然で、歳の近い三兄弟となるとなおさら…

PIECE達よ

今週のお題「赤いもの」 私はピスタチオが好きだ。 鼻に触れる独特な青い香りと、とろけるような食感、甘さ。薄皮の渋み。 好きになったきっかけは祖母で、その英才教育は私が小さな頃から始まっていた。そもそものピスタチオ好きは、祖母だった。 私はいわ…

目くそと鼻くそが肩を組んで笑いあえば世界は平和だとか

「威嚇する時のミツバチくらい震えました」「へえ、なんじゃそりゃあ。震えるのかい。ミツバチは」「はい。シバリングというらしいです」「勉強にはなるが、まずその説明が必要になるよな」「はい、そうですね……」 だめか……。心の中でため息をついて、私はギ…

のいぶいいもれそ。みるぐいぬかういとうょぎんに

「人形が動いた、って話、怪談好きじゃなくても一度は聞いたことがあるでしょう」 玉木さんはグラスの水滴を指でいじりながら言った。「子供騙し。ええ、陳腐な話ね」 玉木さんに招かれ、私は彼女の家を訪れていた。 彼女の作った夕食をご馳走になり、私の持…

優しさに包まれたなら

駅に着く直前、眼前のシートからアラーム音が鳴った。 油を含んだ髪の、少しふくよかな女性が眠り込んでいて、音は彼女の方から鳴っている。その他大勢の人間がそうであるように、彼女も次の大きな駅で降りる予定なのだろうか。しかし、彼女は項垂れた頭を上…

変な話

猫が飛び出してきたのだ。 その日、私たちは久しぶりに二人で晩御飯を食べに行った。その帰りの出来事だ。 人気ひとけも車っ気もない山中を走っていると、道路脇の茂みから突然猫が飛び出してきた。 ちょうど話題が尽きていたのでカミ子は運転に集中していた…

ただし、

ドラッグストアで買った洗顔料で詐欺に遭った。世も末も末だ。 してやられた、と気が付いたのは、予備の洗顔料を購入してしばらく経ってからだった。おかしいとは思ったのだ。やけに持ちがいいと。 買い足しを勧めるかのように洗顔料の塊が「ベッ」と飛び出…

嘘から出たまこと

SNSの発達した昨今。わずか十数年前には考えられなかったような、奇想天外な発想で生業を得る若者が次々と生まれている。 コスプレ屋、拡散屋、おごられ屋など、大学を卒業して一流企業への就職を夢見た我々世代では考えても考えつかないような柔軟な発想に…

もうたべられないかな、と思ってからさらに三日後、もう食べられないよな、と思う

収穫された野菜は生きているのだろうか。 宇垣美里は涙を流しながらそう思った。 彼女のその涙は、切っていた野菜に由来する。玉ねぎをみじん切りにしている時のことだった。 少なくない年月を生きてきて、初めて抱いた疑問だ。この歳になって湧き出てくる疑…