中川騒動
改めまして、こんにちは。
中川美希です。
tthatener.hatenablog.com
私は上記の理由で、そう名乗らざるを得なくなってしまった。
もう少しだけ詳しく話すと、私は元・中川美希と、衣服と免許証を交換した。彼女の目的が一体何なのかはわからない。
移動手段である車を奪われることはなかったし、今もこうして元の家に帰ってきた。
元・中川、略して元中も、この家に来た形跡はない。
とにかく、女物の服はすでに脱いでしまったから、実害はなかったようなものだ。
普段通りに夕食をとり、テレビを見る。数時間も経てば、元中との出来事を早くも忘れていた。
「ははは」
テレビでは、二十四時間耐久ワキ隠し選手権が開催されている。
腕を上に上げたりして、二の腕とワキに付けた赤と黄色のスイッチが離れると、装置が作動してしまう。スイッチは低周波治療器と連動しているので、ふと忘れたりミッションで無理をすると、ビリビリと電流が流れるのだ。
ポーン。
インターホンが鳴った。先日話した通り我が家のインターホンは壊れているので、ピンポンと鳴らない。
何か郵便物でも届いたかな? と思い、急いで玄関へ向かった。
サンダルをひっかけ、今まさにドアを開かん、という瞬間に気が付いた。
こいつ、元中だ。
玄関の磨りガラスにシルエットが映っている。上半身は青。私が昼に着ていたTシャツだ。
「帰れ!」私は叫んだ。「ここは渡さん!」
「警察です」
扉の向こうから聞こえる声は、男の物だ。
「あ、警察ですか」
慌てて玄関を開ける。そこに立っていたのは、なんと、というか、やはり、というか、まさか、というか。……元中だった。
つづく
まさか続くとは。宜しければワンクリックずつお願いします。
生まれ変わらせられりれり
私はビーチにいた。
暇を持て余し、外に出る気になり、ノートと小説と折りたたみのチェアを持って、近所のビーチへと向かったのだ。
日曜日。海にはパーティーをしている学生らしき団体や、ベビーカーを押して散歩をする女性、アジア圏の旅行客らしい夫婦などが、思い思いにビーチを楽しんでいる。
私はそれらの塊から少し離れた東屋にチェアを開き、腰を下ろした。
北風が吹いていて、少し冷える。
一枚羽織るものを持ってくればよかったな、と思いながら読書をしていると、遠くの方からこちらに向けて歩いてくる、水着姿の男女が見えた。
白人だ。
もし、彼らに話しかけられたらどう話そうか。写真を取ってくれないか?と言われたら?
「Sure」でいいか。
簡単そうな英単語の予習をしていると、不意に背後から声をかけられた。
「すいません」
随分と驚いてしまった。私は肘掛のポケットに入れていた缶ジュースをこぼした。運悪く太ももの上に缶は倒れ、あわあわと手を動かす。
そんな私の状況など我知らずといった様子で見守っていたその女は、しばらくして言った。
「変わってくれませんか?」
何をだ。なんでもいいから拒否しようと、「いいですよ!」と勢いよく言った。
間違えた。嫌ですよ!と言おうとしたのに。
女は私の返事を聞くと、にこりとして服を脱いだ。文字盤の小さな腕時計と、ネックレスも外す。
しくじったなぁ。
仕方なく、私は彼女と変わった。交換だ。
改めまして、はじめまして。どうも、こんばんは。中川美希になりました。
ブラのサイズは、ピッタリだった。