さいたまのさいはさいのかわらのさいだよ。
６年だとかそれぐらい前、私は埼玉県の埼京線沿いのアパートへ引越した。
荷解きが終わり、家の周りを散策することにした。スーパーや駅へどの道を通っていけばいいのか知るためだ。
歩いて行ける範囲に図書館を見つけ、こりゃいいやと私はホクホク顔で路地を歩いていた。その時だ。
目線の先、つまりこれから向かう先に座り込んで、ビニール袋を口にあてがいスーハ―スーハ―といわせている若者が目に入った。
驚いてその場に固まる。
どっちかだ。
過呼吸か、シンナーか。 症状か、中毒か。
１：１８ぐらいの割合であっちだろうとは思うが本当のところはわからない。
ヤバいところに引っ越したなぁ とか、ここは通らない方がいいかなぁ とか思ったが、その道を越えて左右どちらかに曲がると、これから頻繁にお世話になるであろう「ローソン」があるはずだ。
どの辺りにあるか。それをどうしても確認したかった。
もうなるべく見ないようにしようと覚悟を決め、若者の脇を通り過ぎる。
すると若者はようやく私に気付き、ものすごい勢いでビニール袋を隠した。そしてものすごい眼力をこちらに向ける。
私は慌てて尋ねた。
「ローソンってこっちですか？」
若者は答えた。
「潰れましたよ」
ありえない。
ありえない。
何を思ってそんな、すぐばれるウソをつく。私は地図アプリで調べたのだ。
ほんとだった。
ほんとだった。
ローソンがあるはずの場所は、エロビデオ屋になっていた。
せめて飲食店にして欲しかった。これじゃあ買えてもおかずぐらいだ。
こうして私の愉快なさいたま市民生活は始まった。
その後、エロビデオ屋であんなことがあるなんて、当時の私はもちろん知る由もなかった。
つづく（つづきません）
