夜中に女から呼び出しを食らう
「なあ」と「なぁ」に優劣はあるのか。
発端は酔いどれ女の指摘からだった。
「なんでさぁ、『なあ』の『あ』が大きいの?」
隣を歩く千鳥足の山本とは、先月、飲み会で知り合った。
私が小説を書いていると話すと、読ませてくれと言ったのだ。 私は即答でオーケーした。
閉じ紐でくくったA4の束を渡してから、数週間後のことだ。
「他の作家の作品でも『なあ』じゃなくて『なぁ』だったのに、 おかしいよ」
山本はそう言って、だめじゃん、と付け足した。
作中の「社長」は、主人公の母のようでも父のようでもあって、「 ~なんだよなあ」と言うのが口癖だ。
社長は「なぁ」とは言わない。あくまでも「なあ」だ。
「おかしくはないでしょ。『あ』 が小文字じゃなきゃいけないきまりなんてないよ」
納得しかねる表情で、山本は次に進む。
「それに、ガンメタリックって何?普通わかんないよ」
「ああ、それは確かにそうかもね」
メモに書いた。ガンメタリックカラー、と書いてもいいかもしれない。 どういう色なのか解説しようかとも考えた。
「あとさぁ、複線回収してよ。投げっ放しはだめ!」
「投げっ放しなとこ、あった?」覚えがない。「 何ページまで読んだの?」
山本はけろりと言った。
「二十ページ」
「えぇ?」
私は山本を堤防から突き落とした。
山本は水面のギリギリで羽ばたいて、暗闇に飛び上がった。
バサバサと、蝙蝠の羽ばたきに似た不気味な羽音を鳴らす。
不安になった。飲酒飛行は刑法違反にならないだろうか。
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