バイバイ
テレビでも、ラジオでも言っている。
「平成最後の」クライマックスだ。
年を跨ぐのと何が違うんだ、とこのバカ騒ぎを斜に見ていたが、 どうやら騒ぐほどのことだなとようやく思い至った。
元号が変わる。一つの時代が変わる。
日本国民の何分の一かは、それを初めて「体感」する。
私もその一人で、 昭和から平成に変わる時点ではまだおたまじゃくしだった。
いつかは変わる「当然のこと」のようだが、 必ず訪れる瞬間ではないのだと知る。
世界が、日本が、 ひいては私個人がこの瞬間に立ち会える確証などない。
日付が変わる瞬間まで気は抜けない。
皇居内に鎮座する厳かな建物。
全ての人間がピシリと直立している。
ストンとしたシルエットの燕尾服を纏った陛下が、 最後のお言葉を発すべく、口を開いた。
「ズボンのことをパンツと呼ぶのは、 未だに慣れないものでございます」
陛下……
あらゆる人が、あらゆる意味でその言葉を噛み締め、反芻した。
中には堪えきれずに涙するものもあった。
日本が変わる。
明日以降も「ズボン」を続けるか、あるいは「パンツ」と呼び変えるか、あと数時間で決断をしなければならないのだ。