スウィーテスト多忙な日々

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後始末のお役立ち情報

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うわの空で歩いていると、壁にぶつかった。

私が自動ドアだと決めつけてろくに見ていなかったそれは、トリックアートよろしく壁にラッピングされた写真だった。

 

私の失態を見ていたのだろう。背後から若い女の押し殺した笑い声が聞こえてきた。

私は振り返らず、目の前の偽りを睨みつける。

 

 その自動ドアの先は、前衛的な衣類が威風堂々たる面持ちで陳列された衣料品店らしかった。

 鮮やかなピンクのオーバーオール、肩から羽の生えたロングコート、腹の辺りがぽっかりと星形に空いたデニムジャケット。

 何かの広告だろうか?それとも、賑やかしで張り付けられたものか。

 なんにせよ、その先にある黄金のジャケットを試着することは難しそうだ。

 

 ため息をつき、幻の店から目を離したその瞬間、視界の端に動く人影が見えた。

 体は脳の命令を待たずに動いた。再び、平面の服屋に目を凝らす。

 

 今のは一体なんだ。写真は、相変わらず写真だ。店員らしいレジの女は当然静止している。

 本当か?そのまま見つめていると、女は今にも動き出しそうに思えた。まばたきをしたように見えた。

 この野郎。だましやがって。

 あると思ったら無くて、無いと思ったらあるじゃないか。

 

 私は水泳の授業で習ったようなフォームで、あるいはターミネーターに登場する液体金属の彼のように、自動ドアの中心に指を突き立てた。

「写真じゃねぇんだろ!わかってんだぞぉー!」

 叫んだ。

 

 私の声に呼応するように、背後が騒がしくなる。

 カメラのフラッシュを感じ、シャッター音が鳴った。カシャカシャカシャ。

 ブツリ、と感覚があり、自動ドアに切れ目が入った。私はカーテンを開くように、思い切り両手を開いた。

 幻の服屋は一瞬にしてべろりと剥がれ、足元でぐしゃりと潰れた。

 

 肩で息をしながら、一歩、二歩と後ずさる。

 そこには、まっさらな壁があるだけだった。

 なんてこった。

 私は大きく息を吸い込み、再び叫んだ。

「落とし前ー!!!!」

 

 ピタリと喧騒が止む。遠くから、わっせわっせと声が聞こえてきた。

「落とし前、落とし前、わっせ、わっせ、落とし前」

 落とし前屋が来たのである。

 

 これで安心だ。

 落とし前屋は落とし前をつけると、さっさと素早く去った。

「いくらですかー?」

 私は雑踏に消えゆく落とし前屋に叫んだ。

「十万円でーす!」

 

 落とし前屋は、非課税なのだ。

 

 

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