いつまで経っても
忘年会をしている。
年の瀬である。年を重ねると友人と会う機会が減って、ついに一年も終わってしまうぞというところで集合を呼び掛けた。
同性ばかりではあるが案外多く人数が集まり、忘年会と呼んでも差し支えないぐらいの団体さんになった。
結局のところ、みんながみんな自分から計画を立てることを面倒くさがっていただけなのだろう。
どこまでの知的レベルにおいて同意が得られるのかはわからないが、男の会話というのは大抵がくだらない話ばかりである。
誰彼が昔こんな奇行をしていただとか、誰彼が実は昔付き合っていたとか、身体の関係があったとか。
くだらないがそれでも楽しい。何度同じ話をしても笑い合える友人がいるのは、とてもいいことだ。
岡本が転職をしたらしい。
新卒で入社した時から考えると、十年以上ぶりの就職活動だ。履歴書や面接での自己アピールに関して、随分と苦労したという。
「まぁ、長所はある程度すぐ考えつくよ。十年以上働けばそりゃ自ずと何が得意か自覚もする。新卒の面接で考えた自己アピールがなんて幼稚だったんだって恥ずかしくなるね」
岡本は渋い顔をする。「かっこいい」という意味ではなく、渋いものを食べたような顔だ。
「そんな難しいもんかね。じゃあ何に難儀したんだ?」
三井が尋ねた。常に根拠のない自信を持っている三井にとって、面接で苦労するなんてそれは理解しがたいだろう。
「短所だよ」
岡本は箸を突き立てた。
「あぁ」
「短所ね」
「確かに、正攻法が分からない質問かもしれない」
それぞれ思い思いの感想を口にする。
「そりゃ長所と同じようにさ、自分の何が短所かもわかってはくるじゃない。でも十ウン年働いた上でこの短所が残ってますって言っちゃうとさ、もうそれは決定的な短所になっちゃう気がしないかい?」
「確かにな」
「そんなの言えるわけないじゃない。かといって短所が思いつかないって言うとさ、自己分析もできない厚顔無恥人間かもしれないって警戒されるかもしれない」
「かもしれないって二回言った!」
「二歩!」
幼稚な野次が飛ぶ。
結局岡本はストレートに採用を勝ち取り、前職より待遇も上がったらしい。何よりだ。
「短所ねぇ」私は誰にでもなく呟いた。「短所、あるかなぁ俺。大した長所もないけど、短所も思いつかないなぁ」
「いやあるじゃんお前短所」三井がさもおかしそうに声を張り上げた。「お前は、ハゲ」
酔っている。酔っているとはいえなんて物言いだ。うぉい、と返す。
「お前は、ガリガリ」
岡本が続いた。なんだこいつらは。人の外見しか見ていない。
「足がくさい」
西が言った。そんなこと面接で言うわけないだろう。
「尻毛が濃い」
ルイス。
「ホクロが多い」
幸太郎。
「笑い声が変」
浅井。
「げぇげぇげぇ」
河童。
河童だ!
私たちのチームワークはすごかった。
いつの間にか参加していた河童の四肢を一瞬で掴むと、八十センチ四方のアクリルケースに詰め込んだ。手早く会計を済ませると、その足で生物学科のある大学へと走った。
しかし残念なことに、あまり良い値はつかなかった。外来種だし、旬じゃないらしい。
教授から小銭を受け取ると、今度は駄菓子屋へ走った。
遊戯王カードを買うのだ。