小手先だけの浅はかな策略
革が好きだ。
手首に何か装飾品が欲しくて、途切れ途切れに探してはいるのだけれど、琴線に触れるそれはなかなか見つからない。
それならどうするのか。作るしかない。
手始めに、カラスが光り物を集めるように無駄にコンチョを買った。
革細工の知識など一つも持ち合わせていないが、この手首に装着したい形は決まっている。私はそれらしい道具を適当に仕入れ、試行錯誤を繰り返した。
一つ、事件が起きた。
冷蔵庫のポケットで冬眠していた接着剤がなかなか仕事をしてくれず、針で刺したりこねくり回していると、彼は突然爆発した。比喩ではなく、実際に。
「のり」というレベルのかわいらしい接着剤ならまだしも、それは「瞬間接着剤」という名の出来るヤツで、あろうことか私の目にも飛び込んで来た。
激痛だ。瞼がくっついて緊急搬送、なんてことにならなかったのは本当の本当に不幸中の幸いだった。
未だに机の一部にボコボコとした瞬間接着剤のコブが残っている。
専用品ですらない安物の道具を使い、作業を続ける。三時間かけてもボツになるのはザラで、お粗末すぎて恥ずかしいレベルの作品がいくつもできた。
幅を7ミリにしようか、8ミリにしようかというような、些細で重大な悩みを繰り返した。百年が経った。
どうにか、自分の願望を具現化することができた。
試しにフリマアプリに出品してみたが、イイネすらつきやしない。
それでもいいのだ。私の理想の形が、私の手首にぴったりとはまった。
それだけで十分だ。
最後の一本が出来上がった時、窓には朝日がさしていた。
今日も仕事だ。眠い目をこすり……眠った。
遅刻だ。私は驚くほどの嘘をついて事なきを得た。
文明社会には嘘が不可欠だ。