スウィーテスト多忙な日々

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アクセルをふかすと脳みそが溶ける

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人の群れを見ると度々思う。全員に意思があって、全員に人生があるんだよなぁ。
 
 何気なく呟くと、隣の宮下が否定した。
「ないない。一緒だよ、全員。働く人間が一人しかいないと困るだろ? だからこんなにコピー人間が必要なんだ」
 宮下は頭がいい。だから、仕事をしていないが金を持っている。
 コピー人間?
 私は宮下の言った言葉を反芻した。ついつい歩が緩む。ほぼ止まりかけて、ようやく意味が分かった。
「なるほど。コピーというのは、親が子供を産むことの比喩で言ったのか」
 数歩先を歩く宮下が鉄の表情で振り返った。
 
「違うよ」
 左耳に声が飛び込む。息が耳に触れるほど近い。
「現実の話さ」
 今度は右耳。
 私の正面と、左と、右。全く同じ「宮下」という人間が三人いる。
「なっ、なっ、なんだお前、ら! なんだこりゃあ!」
 
 私は落ち着きを取り戻そうと、ドン・カッ・カッ、と足踏みをした。
 三人は不敵な笑みを浮かべる。
 これが、現実? それじゃぁ……
「昨日何食べた?」
 
「カレー」
「パン」
「焼肉」
 三人はそれぞれ別に答えた。
 宮下のSNSを確認する。朝食がパンで昼食がカレー、夕食が焼肉だった。
「じゃあさ」私は食い下がる。現実だと受け入れるには、まだ早い。「視力は?
「0.7」
「0.8」
「両目で1.0」
 正面の宮下が、鞄から健康診断の結果を出した。ぐうの音も出させないつもりだ。
 
「宮下の血液型は?」条件を付け足す。「三人、同時に。せーのっ」
「エー」
「オー」
「ビー」
 ばらけた。
「あーっ!」私は狂ったようにはしゃいだ。「違うじゃん! やっぱり! 比喩だ比喩! ふたりは比喩!」
 プリキュアみたいに言ってしまった。私は赤面した。
 
 

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