タンポポの一生
大人になると、タンポポの綿毛をふぅ、と吹くことはほとんど無くなってしまう。
そもそも探しはしないし、見つけたとしてもわざわざ手を伸ばすようなことも無い。
そんな人間にもやはり、時計の針を十何万回と逆に回したあの頃に戻ると、嬉々としてタンポポを振り回していた時期があるのだ。
タンポポの綿毛がどうやってできるか、ご存じだろうか。
小学生と同程度の疑問を覚え、私はキーボードにそれを打ち付けた。
タンポポは多年生植物といって、一個体が何年も年を越す植物らしい。
物語は、宙を舞う綿毛から始まる。着地した種子は、早ければ一週間ほどで発芽し、開花時期を待つ。
日が昇ると花弁を開き、日が落ちると閉じる。開花時期になると、約一週間そうやって、鮮やかな黄色い花を咲かせる。
花としての寿命を迎えると、タンポポの花は閉じて、枯れてしまう。
しかし、そこで終わりではない。タンポポは次の準備に取り掛かる。それから約一か月の後、まるで花を咲かせるように彼らは綿毛を咲かすのだ。
深くを考えず、私はタンポポの花と綿毛は何か別の種類のように考えていて、調べることによってはじめてをそれを知った。いや、子供の頃には習ったんだろうか?
とにかく、脳内のタンポポ用のしわに、少し明確な説明書きが追加された。
もしかすると、知らないところであらゆる事象は繋がっているのかもしれない。そしてそれを知らないのはただ一人、私だけだと。
はたと思いつき、私は男に声をかけた。
男はにっこりと笑って、そうだよ、と答える。
「うん、そうだよ。お前の、お父さんだよ」
物心ついた頃から毎晩やってくる男は、私の父だった。
私は満足して、永い眠りに落ちた。