スウィーテスト多忙な日々

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あの頃の不思議は今の常識だったりするわね

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 ある種類の蝶は、羽を開閉するタイミングが全ての個体でほぼ完全に一致している。

 つまりこちら側の蝶も遠くにいる蝶も全く同じ動きをしていて、一方の羽が開いている瞬間にもう一方の羽が閉じている、ということはありえない。草花に止まった彼女らは、まるで掛け声を出し合って動きを合わせるかのように、見事にシンクロして見せるのだ。

 例えば国境をいくつも越えて距離的に分断してしまっても結果はやはり同じで、まるで一つの歯車を元にして動いているようにも思えてくる。
 とある熱心な科学者の報告によると、飛行しているものと着地しているものではその法則の限りではないが、飛行しているもの同士と着地しているもの同士ではやはり法則が適用されるらしい。

 生物・植物全てにおいて、このように「生存している同種の動きがほぼ完全にリンクする」ということは考えるまでもなく有り得ないことだったので、発見当初は科学誌の片隅にひっそりと掲載された論文も、瞬く間に世界的なニュースになった。
 しかし、想像に易いことかもしれないが、それがわかったところで何になるのか、という評価も多数あった。
「確かに驚くべきことだが、だからなんだというのだ」
 と、ある強国の首相が発言したことがきっかけで、その蝶の不思議な性質はいつしか世間で注目されなくなってしまった。

『エメラルド・グリッド』という名のその蝶は、日本では『アオショウジ』と呼ばれている。数こそ多くはないものの、本州以南であればどこでも見かけることができる。
 私はまさに今、そのアオショウジを目の前にしてあるアイデアが浮かんだ。羽の動きを強制的に止めてしまえばどうなるか、ということだ。
 早速行動に移った。虫取り網を手に格闘すること三分。どうにか蝶の捕獲に成功した私は、恐る恐る蝶の羽を押さえつけた。
 背後の遊歩道を、数台の自転車が通り過ぎる音が聞こえた。しばらく呼吸も忘れて観察していたが、あることに気が付いてついつい吹き出し、頭を掻く。ただ一羽だけを観察したところで大して意味がないじゃないか。
 指を開き蝶を放すと、近くのスーパーで買い物をして帰った。

 晩、テレビの画面上部にニュース速報が流れた。
「地球の自転速度の不規則な低下を観察」
 詳細情報を見て思い至る。原因は、私かもしれない。
『エメラルド・グリッド』という名の歯車の動力は、地球だったのだす。



 

 

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