沖縄県西谷市奥田45
我が家の脇を道路が走っている。間に小さな藪を挟んでいるので厳密に言うと脇ではないのだけれど、ごく近くを走っている。
国道でも県道でもない小さな道だけれど、頻繁に車が通る。たまに十台以上はあるハーレーの集団がドドドドと存在感を主張しながら走り抜けていくこともある。その先にちょっとした観光地があるのだ。
特に土日は車やバイクの往来が多くなるはずなのに、この日曜日は随分と様子が違った。何も、誰も通らないのだ。
カーテンを開けっぱなしで寝てしまった私は、外の明るさで目を覚ました。時刻は八時。全く動きたくなくて、しばらく寝転がりながら本を読んでいた時にそれに気が付いた。音がしない。日曜日になれば待ってましたと言わんばかりに朝早くから唸る芝刈り機の音も、今日は聞こえない。それからしばらくは外の様子を気にしながら読書をしていたのだけれど、結局何の音も鳴らなかった。気が付く前と気が付いてからで、合わせて二時間以上は経っている。
それを気にしてしまうともう読書などできなくなってしまって、私はとうとう重い腰を上げた。階段をするすると下り、そのまま玄関を出た。
何の変哲もない真っ青な空だ。藪の方では、長く伸びた竹の葉がさらさらと揺れている。
ああ、こりゃあいないな、と呟いた。誰もいない。
耳を澄ましても、人の発する音は何一つ聞こえない。どれだけ遠くまで意識を広げても、車やバイクの音は無いし、人の声ももちろん皆無だ。
とんでもなくオカルトチックな出来事なのに、いざそうなってみると意外とわかるものだな、と呑気に考えた。なんの根拠もないけれど、この辺りから人間が消え去ってしまったのはきっと間違いない。半径数キロ以内だけがそうなってしまったのか、この島まるごとか、あるいは日本、地球全体がそうなのか。
鳥の声、虫の声すら聞こえない。その法則に従うと、微生物や菌も消えてしまったということになるのだろうか。
もしそうだとしたら、大きな疑問が一つ残る。
どうして私だけが、こうして残っているのだろう。
縁側に腰かけ、私は延々と考えた。一時間、二時間、三時間……。時計の針は昨日までと同じテンポで、変わらず円を描いている。
アラームが鳴っても、私が縁側から腰を上げることはとうとうなかった。
それから三日が経った。開発主任は無表情で縁側を見つめている。
目線の先にある、充電の切れた機械は、険しい表情で蝋人形のように固まっている。
開発主任は鞄からクリップボードを取り出しすと、『想定外の事態への対処』のチェック項目にバツをつけた。
塀の外にあるスピーカーから、ゆったりと走るバイクの重低音が鳴る。機械の瞼が、一度だけ瞬いた。
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