スウィーテスト多忙な日々

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青いウインドブレーカーの男の件

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 何を期待していたのかすら覚えていないが、私は牧場にいた。


 牧場にはただただ広大なすすき野原があって、黄金色の海の様相を呈している。すすきの海は大きくうねっていて、今にも崩れそうな大きな波はその後方の景色をも隠して、疑似的な地平線または水平線を作っている。
 私は牧場をひたすら歩いた。何か意味ありげな柵はあるものの、馬も牛もリャマもアルパカもいない、ただの金の海だった。


 結局何もなかったなぁ、と思いながら駐車場に戻るが、なんとも嫌な予感がした。そしてその予感は不本意ながらも的中してしまう。
 車が、無い。
 例えば駐車場が複数階に分かれているショッピングセンターなどで車を見失っても、まぁどこかに隠れているだろうと楽観してキーレスのボタンを押し押し探せばそのうち応答してくれることがほとんどなのだが、今回はそうともいかない。
 そこまで広くないし、屋根のない平置きの駐車場だ。三分探し回って見つからなければもう「無い」と判断せざるを得ない。そして実際にそう決断したところだった。


「車が無いんですよ」
 すぐ近くで声が聞こえた。
 同じ理由で当惑している男が、どうやら牧場関係者らしい男に泣きついていた。
 私はどうしていいのかわからなくなって、無言で二人の後を追った……


こういう風によく、車の盗難にあう夢を見る。
自分が死ぬ夢や落下してしまう夢よりも現実味があって、よかった……と目覚めるたびに心底ほっとする。
ただし、今日はその「よかった……」がなかった。
 牧場関係者を一緒に連れてきてしまったのだ。

 

「コバエ、コバエ……」
 青いウインドブレーカーを着たその男は、夢から引きずり出された衝撃で少しやられてしまっているようだ。
 この男は実在する人間なのか。それとも夢が具現化して出来た怪物か。
 とりあえず写真を撮ってメルカリに出品してみると、三万八千円で売れた。
 やったぜ!
 私はすぐに郵便局へ車を走らせ、聞いたこともないような牧場宛てに男を発送した。

 

 

 

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