走れ。走っていい場所を。
「おむちゃんとおまるくん、結婚したらしいですよ」
バイトの湯川が、はがきを手に言った。
生きていると悩みは絶えないもので、
しかし、それが当人にとっていかに重大で深刻な事態であっても、
そういった、相談者と有識者をマッチさせる「お悩みお見合い所」
「おむつ断ちができなくて」
応接室のソファに座る若い女は言った。
「そうですか。うーん」
私はとりあえず深刻そうに唸る。
しかも、このお見合い所はもちろんタダではない。
「あれこれ試したんですか?」
私は良心から尋ねた。
「いえ、あの……はい、まぁ」
女はなんとも歯切れの悪い返答をする。
「お医者さんへは?」
「……いえ、そんな」
「ご近所さんとか」
「言えません」
なるほど。そういうタイプか。
たまに、こういう人がいる。
「おいくつですか?」
軽い笑みを作って聞いた。この人に向けるべき顔はこれだろう。
「二十……九です」
「あ、いえ。お子さんの年齢です」
私が笑みを崩さずに聞くと、女は苦い顔をして立ち上がった。
「あの、私のことなんです……」
女の下半身は、
私は笑みを張り付けたまま固まってしまった。
「家族や友人には言えないし、
女は少し泣きそうな顔をしている。
こんな相談を解決できる有識者はそうそういない。だが、
「この人と会ってみてください」
私はある男のプロフィールと顔写真の載っている資料を女に手渡し
それが「おまるくん」だったのだ。
あれが、もう三年前のことになる。
相談者同士が一つになって、プラスの結果を生む。
そうやって、少しずつマイナスを減らしていこう。
最後に一つ残ったマイナスが、行き場を失い、きっと悪魔を生むだろう。
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