スウィーテスト多忙な日々

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本当においしい沖縄のタピオカドリンク店ベスト3の紹介(ではない)

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「タピオカァ! タピオカジュースゥ!」

 憎たらしい口調でユウタが言った。ここ数日ずっとこうだ。
「うるせぇ!」私は屋台から出て、拳を振り上げた。「ぶん殴るぞ!」
 もちろん本気ではない。子供からタピオカ呼ばわりされたからと言って、ぶん殴るほど私はタピオカ野郎ではない。
 ユウタもそれを知ってか、通学路の途中にあるこの焼き鳥屋の前を通る度に、そうやって私をからかうのだ。
 ユウタと私は何の関係もない。友人の子供でもないし、家が近所というわけでもない。ただ、こうやって商売中にたった数秒間遭遇するというだけだ。

 一体どういう経緯でタピオカ扱いされるようになったのかは、皆目見当がつかない。ウチは焼き鳥屋で、メニューは焼き鳥のみ。塩、塩だれ、タレと味付けはいくつかあるが、その中にタピオカ味がある、というわけでもない。黒のドットが並んだ、ライトブラウンのTシャツを着ているわけでもない。全くそれを連想するようなものが思いつかない。
 彼がそう言うようになったのは、十日近く前のことだ。いつも通り下校する子供たちを見ながら、いつも通り焼き鳥を焼いていた。
 その日、ユウタは友人グループから離れ、一人で歩いていた。それが気になって、つい声を掛けると、ユウタはこちらをキッと睨んだ。
「うるさい!」控えめに叫んでから、小さく付け足した。「……タピオカ」

 ユウタがこうやって感情をむき出しにするのは初めて見たし、その意味も分からなかったので、私は何も言い返せずポカンとしてしまった。
 その翌日も声を掛けた。返事はやっぱりタピオカで、だけど少し語気が強くなっていた。タピオカの粒が少し大きくなった感じだ。
 さらに翌日も、翌々日も、私たちの短いやり取りは続いた。ユウタは毎日いろんなタピオカを投げてきて、それがおかしくて、私も大げさに「うるせぇ!」と返す。ちょっと変わったコミュニケーションだ。
 いつまで続くのだろう。そう考えたこともなかったが、それは突然に終わりを迎えることになる。

 小雨が降る中、ユウタは傘も差さずにトボトボと歩いていた。
「どうしたぁ? 風邪ひくぞぉ」
 声を掛けると、ユウタは力なくこちらを向いた。
「タピオカァ……」
 ぎょっとする。ユウタは目を真っ赤に腫らしていた。目が合うと、ワンワンと泣き出してしまった。

 私は屋台を飛び出して、ユウタの背中をさすった。それから屋台の中に招き入れ、話を聞いた。
 どうやら数日前から友人と仲たがいしていて、とうとう今日、殴り合いの喧嘩になってしまったのだと言う。見てみると確かに、ひざや腕に打撲の跡や切り傷がある。
「まぁ、男は喧嘩して仲良くなるもんさ」私は月並みにユウタを慰めて、気になっていたことを聞いた。「そういえば、タピオカってなんなんだ?」


「バカって言われたら、嫌だろ」
 ユウタは眉を寄せた。
「どういうことだ?」
「友達にバカって言われて、むかついたんだ」
 話を変えたつもりが、どうやら繋がっていたらしい。声を掛けたあの日、ユウタは友人に暴言を吐かれていたのだ。
「だから俺もおっちゃんにバカって言おうとしたけど、バカって言われたら嫌だろ?」
「ユウタ……」
 なんていいヤツなんだ。つまり私は連日バカと言われていたに等しいのだが、ユウタの計らいによりそれに腹が立つこともなかった。ならばきっと悪い事ではない。

「サービスだぞ。ほれ、一本食え」鼻をすすりながら、焼き鳥を差し出す。「煙が沁みちゃうんだよなぁ」
「いい」
「遠慮すんなって」
「いいよ。いいって」
 素直になれないこの少年も、すぐに大人になってしまうのだろう。この日の味を覚えていてほしい。遠慮するユウタに対して、私も折れるつもりはない。
「焼き鳥、嫌いか?」
「まずいんだよ。ここの焼き鳥」


「タピオカ……」

 私は呟いた。お前でタピオカを作ってやろうか、という意味だ。

 

 

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今回は、お友達からお題を頂いて作りました。「タピオカ」でした。

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