スウィーテスト多忙な日々

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街をさる


七月十一日、未明。
街で何かを見ました。
彼は私の目の前でタクシーを降り、その場にしゃがみ込みました。こんな時間に何をしているんだこの老人は、と私は眉をひそめます。降車するさまは、少し不健康な老人といった様子でした。
もしかして体調が悪いのかな? 私の体は少し前のめりになります。

老人はしゃがみ込んだまま、左腕にかけたビニール袋から何かを取り出し、頬張り始めました。少しおかしな光景です。
あれ、これは老人ではないな。そう感じます。豆のような小さな粒を口に運ぶ様は、猿のようです。そう捉えてしまうともうとしか思えなくなります。老人ではなく、老猿。
彼はしばらく何かを食い続け、時にぼうっと呆けました。人間社会に飛び込んで数十年。就職し、家庭を持ち、離散し、ふと夜の街に飛び出し、酒に酔い、道端で猿本来の姿に戻る。そういう風に見えます。

存在に気付かれてはいけない。なぜだかそう思った私は、息を潜めてその様を観察していました。さらに外から見られていたら、私自身もまた、おかしな光景の一つとなっていたでしょう。
それから少しして、彼は手を上げ、またタクシーに乗って去って行きました。
わずか数分の出来事でした。

そういった体験をしました。
猿は案外あちこちに潜んでいるのかもしれないと思いました。
これを書いている私もまた、猿なのではないかと考えさせられます。枝々を飛び回っていた記憶が、僅かながら蘇るのです。

 

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