さおだけ屋。ただ、それだけや
たーけやー さおだけー……
只今、物干し竿の販売にお邪魔を致しております……
拡声器から放たれたとぼけた声が、低速で移動している。
あれは一体何なんだろう。誰なんだろう。
「さおだけ屋は何故潰れないのか」というような本を読んだり、インターネットで調べれば何かしら納得のできる情報を得られるだろう。
だから今更、この場でそれを解説したりはしない。
私の友人の兄の名前が「武矢」だった。
当時、ほんの少々脂肪を蓄えていた彼は恰好の的となった。
「たーけやー、肉だけー」
さおだけ屋のリズムで言い、キャッキャと戯れる。さぞかし苦痛だったろう。
トラックに蹴りを入れるぐらいの権利はあったはずだが、彼はそうしなかった。大人だったのだ。
道端に落ちた犬猫の糞を見かけても騒がない。例えばその時かりんとうを手にしていたとしても、何の躊躇もなくその味を楽しめる。
風呂の温度だって高めだし、嬉しいことがあってもスキップもしないし、そもそも毛が濃い。
何年も経って、当時飼っていた犬の名前を忘れても、「たーけやー、肉だけー」のフレーズだけは消えることは無い。
五十年後、さおだけ屋が消え失せてしまっても、あの日々を過ごした友人達の引き出しからそれが無くなることはないだろう。
たーけやー さおだけー……
そのほかー アルミサッシのー 戸車の取り換えも致しております……