玄関先でキングコブラと鉢合わせた時のための心構え
例えば朝、寝ぼけ眼でふらふらと玄関の戸を開けたとして、そこにフードを広げた臨戦態勢のコブラが構えていたらひとたまりもない。しかし、玄関先にコブラがいる可能性を念頭に置いている人なんて、ここ日本にはきっといないだろう。
その危険性にいち早く気が付いたので、私は血清を持っているわけでもないのに近隣住民の中でコブラに噛まれて死ぬ危険性が一番低い。これはすごいことだ。
軒先にUFOが着陸するのを想定していれば「おう、ちょっと乗せてってよ」と片手で頼み込めるように、想定外の事態をいくつも考えておくというのは好機を逃さないための対策でもある。ただ単にリスクを避けるという意味合いだけではない。
数年前、我が家の軒先に、「ハブ」という毒蛇が出現したことがある。それはそれはマタンキ*1の縮み上がる思いがした。
ハブを見つけたら逃がしてはいけない。私は車庫に急ぎ、魚突き用の銛 を手に取り、それでヤツを突き刺した。一メートル少々と大きくはないものの、ハブの力は強く、それ以上に下手したらこちらが返り討ちにあってしまうという恐怖で、私は必死に力を込めたのを覚えている。寅さんこと車寅次郎だってハブに噛まれて死んだのだ。
タマタマ気が付いて噛まれることはなかったものの、気が付かずにダッシュでもしていればきっとヤツの毒牙が私のふくらはぎに食い込んでいたことだろう。ほんとうに、たまたま助かったのだ。だから今でも、特に夜の道では、ハブがいる可能性を考えて視線を巡らせている。
それならばそれで十分じゃないか。ハブだってコブラだって一緒だろう、と言われるとそれは違う。
一口に毒蛇と言っても、彼らの放つ毒は決して一つの種類ではない。神経の働きを阻害する神経毒と、血液の働きを阻害する出血毒があり、さらには同種の毒蛇であっても生息地によって毒の成分が違ったりするらしい。また、神経毒をもっている種が出血毒を併せ持っていることもあるし、出血毒をもっている種が神経毒を併せ持っていることもある。さらに言うと、噛まれずともその毒牙にかかる危険性がある。とあるコブラは、毒液を獲物の顔めがけて噴射するのだという。それが目に入ってしまえば失明の危険性もある。
だから、つまり、武井壮が正しいということになる。
彼はクマやトラやサイの倒し方を想定してコミカルに紹介していたが、何も考えずにけらけらと笑っていた私たちと比べると、本当にそれらと対峙した時に硬直している時間ははるかに短くなるはずだ。たった一度でも、あらゆる想定外への対策を本気で考えるのはきっと身になることに違いない。サラリーマンは常に、ビジネスソックスで武器を作る準備をしておくといいい。
しかし、これだけ言っておきながら、私は玄関先に血だまりを作って倒れている。
初見のビートたけしがスコップで殴り掛かってくるなんて考えていなかった。
これからの時代、どれだけあらゆることを「本気で」想定できるかが生死を分けるのだ。
気をつけろ。たけしは、群れだ。
宜しければワンクリックずつお願いします。