何パーセントまでが偶然で、何パーセントからが奇跡なんだろうか。私たちは奇跡を崇めるのに、偶然には馴れ馴れしい
例えば私が高校生だとして
例えば私が転校生だとして
あの十字路で、食パンを咥えた女子高生とぶつかる可能性はあったのだろうか。
そんなことを考えながら歩いていて、このドラマチックな出会いに疑問を抱いたのはつい数日前のことだ。
新しい街へ移住してきた私は、学生服を着て、南の方角から北へ向かって歩いている。十字路にさしかかった時、西の方角から走ってきたパン女とぶつかった。
「いってぇ。あぶねぇだろうが」
「いたた……。そっちこそ危ないじゃない!」
「なんだとぉ?」
「あ、いけない! 遅刻遅刻!」
走り去っていく背中に向かい、騒がしいヤツだな……、と呟いた。
学校へ到着し、職員室へ向かった私は、HR開始時刻に合わせて担任と教室へ。
「じゃあ、ちょっと外で待ってて」
担任は言う。「お約束」を楽しみたいタイプの教師だ。
ドア越しに挨拶の声が聞こえ、続いて担任の小話が始まる。どんなクラスメイトがいるんだろう。友達はできるだろうか。担任の声をBGMに妄想を走らせる。楽しい高校生活が送れるといいな。
そこで私はふと、朝のパン女のことを思い出す。
これはまさにお決まりの、伝統の、お約束のパターンじゃないか。席へ向かった私は「あっ」という声で顔を上げ、あのパンと指差し合う。
「「さっきの!!!!」」
しかし私はふと、我に返る。
二人の行き先が同じなら、あんな風にぶつかるわけがないじゃないか。北へ向かう私に対して、ぶつかるような方向に向かって走っていたと考えると、あのパンの向かう先は西から東、もしくは私の来た南の方向ということになる。つまり、別の学校の生徒なのだ。
危ない危ない。すんでのところで、私はいらぬ妄想に待ったをかけることができた。
けれど私はふと、疑問を抱く。
あの時は、パンを自宅で食べられないほど時間が迫っていたわけではないし、走らなければならないほどギリギリだったわけでもない。第一私自身はこうして余裕を持って登校できたじゃないか。
あのパンは、きっと回り道をしなければいけない理由があったのだ。コンビニへ寄り道をして雑誌を買い、我慢できずにHRで隠れ読みをしていたパンは、転校生の挨拶にも気がつかない。人の気配を感じて顔を上げると、そこには私がいるのだ。
「あっ!!」
つい声が漏れるパン。
そして私たちは、「「さっきの!!!!」」と指差し合うのだ。
閉まっていたドアが控えめに開き、担任が顔を覗かせた。時間だ。
手と足が一緒にならないように、顔がこわばらないように、注意すべき点はいくつもある。そんなことを考えていると、クラスメイトの顔を見ている暇はない。パンのこともすっかり飛んでしまった。
「沖縄県から来ました。僕です」
担任に促され、自己紹介をした。二年七組という脳を構成する神経細胞たちが信号を送り合って、教室は小さくざわめく。転入生にカマしてやろうという先制攻撃はなさそうだ。
「じゃあ、僕くんの席はあそこだな」
担任は言う。
ぎこちない笑みを張り付けながら、私は席へ向かう。その先から「あっ」と声が漏れた。
キタ。
私はカッと目を見開く。
顔を上げた先にいたのは、HUNTER×HUNTERのあいつらだった。
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