2019-01-01から1年間の記事一覧
冷凍庫から、外を新聞紙に包まれた肉が出てきた。冷凍庫で食材を漁っていると、小分けにしたご飯の下からその肉は出てきて、私は「しまった」と顔をしかめた。それは近くに住む親戚からの頂き物で、二週間だか三週間だかそれぐらい前の物だ。いや、一か月だ…
蛇が死んでいた。 食料を買いに車を走らせ、玉ねぎと納豆と鶏肉と牛乳を買った。何かメニューが頭に浮かんでいたわけではなくて、これらの品は常に切らさないように常備している。 今日は何を作ろうかと考えながらハンドルを握っていて、あと二回角を曲がれ…
「タピオカァ! タピオカジュースゥ!」 憎たらしい口調でユウタが言った。ここ数日ずっとこうだ。「うるせぇ!」私は屋台から出て、拳を振り上げた。「ぶん殴るぞ!」 もちろん本気ではない。子供からタピオカ呼ばわりされたからと言って、ぶん殴るほど私は…
悲しい。ただひたすらに悲しい。それはしばらく忘れていた感情で、私は少し動揺してしまった。何かにものすごく腹が立つことはあっても、何かをものすごく悲しく思うことはなかったな、と気が付いた。そして、ものすごく腹が立つことよりも、ものすごく悲し…
我が家の部屋の隅でホコリを被っているあれもこれも、どこかの誰かが探し回っているものだ。革靴が一万円で売れたり、コーティングの剥がれたサングラスが五千円で売れたりする。その日アプリにメッセージが届いたのは、新しいモデルに買い替えて以来クロー…
「おむちゃんとおまるくん、結婚したらしいですよ」 バイトの湯川が、はがきを手に言った。 生きていると悩みは絶えないもので、それがあまりに大きいと自分を責めてしまったり、生きる希望さえ失ってしまうこともある。 しかし、それが当人にとっていかに重…
ラジオを聴いていると、うんこの話をしていた。 ラジオというのは少し特殊なメディアで、うんこやちんこ、童貞、包茎という単語が平気で出てくる。話の流れによっては、三十分以上もその話をしていることもある。ごくポピュラーな話題だ。そんな話を聴いてい…
いつか誰かが言っていた。「ジャニーズの男の子たちは成長を止める薬を打たれている」確かに言われてみれば、嵐もキンキキッズも、世界の木村も身長が低い。一体どうしてそんなことをするんだろう、と問うと、「ジャニー喜多川の趣味さ」とその誰かは教えて…
刈りはまだ終わっていない。 洗濯物を干しながら、私の視線は十メートル先の塀の外に向いている。鈍い色の空を背景に、高く伸びた竹がゆらゆらと風に揺れる。そしてその竹から、次の宿主を探すように長く伸びたツルがぶらりと垂れ下がっている。二週間前にと…
1、2、3、4、5……エクセルを下にスクロールしながら、数を数えている。6、7、8、9、10…… どうしてこんなことをするのかというと、それは昨晩のひらめきに端を発する。真っ暗な部屋でアイマスクと耳栓を装着し、完璧な状態でうとうとしていると、突…
「クールビズとビールクズ」 ふと思いついた今晩のテーマだ。 それがどんなにしょうもなくても、思いついたテーマを捨ててしまうのは惜しい。だけどすぐに腐ってしまいそうで、使わずに取っておくのも控えたい。 結局すぐに使ってしまうしか手はないと思い、…
あの本って、どうだったっけ。と思い、女流作家の小説を本棚から引っぱり出してパラパラとページをめくっていた。探している場面まで読み飛ばそうと思っていたが、気が付くと目はしっかりと文字を追っている。だけど二、三度読んだ本だけあって、スラスラと…
かれこれ十年近く前から不思議に思っていることがある。 その光景は物心ついたころから何千回と見てきたけれど、ある時から「不思議だな」と明確に意識し出した。きっと、一度県外に出たから、故郷の風景にも少し興味を持てるようになったのだろうと思う。 …
私のスマートフォンには日課が二つある。一つは毎日鳴るように設定したスケジュールアラーム。起床時間と睡眠時間、その他いくつかの時間を管理してくれている。 もう一つが、謎の通知音。毎日朝の八時六分になると、「ピロリン」とiphoneデフォルトの通知音…
ある種類の蝶は、羽を開閉するタイミングが全ての個体でほぼ完全に一致している。 つまりこちら側の蝶も遠くにいる蝶も全く同じ動きをしていて、一方の羽が開いている瞬間にもう一方の羽が閉じている、ということはありえない。草花に止まった彼女らは、まる…
何を期待していたのかすら覚えていないが、私は牧場にいた。 牧場にはただただ広大なすすき野原があって、黄金色の海の様相を呈している。すすきの海は大きくうねっていて、今にも崩れそうな大きな波はその後方の景色をも隠して、疑似的な地平線または水平線…
私は適当に作られてしまったんじゃないか、と思う。両親の一晩の過ちで……とかそういう意味ではなくて、単純に造形の出来が良くない。 本来、顔という部位は正面を向いているのが正解というか正常なのだろうけれど、私の顔は左斜め四十五度に取り付けられてい…
今年で三十二歳になるので、いわゆる「おじさん」に両足を突っ込んでいる。そんなおじさんの友達のおじさんが、久しぶりにフェイスブックに写真をアップしていた。どうやら数人で旅行に行ったようで、友人と三人の男が古い衣装を着たり観光地を背景にして撮…
今まで意識していなかったのに、突然気が付いてものすごく気になってしまうことがある。 今日は、それが「運」と「運命」についてだった。隣に並べて考えたことも無かったが、「運」というのは運が良かったとか悪かったという風に使われるから、「偶々」と同…
庭掃除をしようか。どうしようか。かれこれ二か月手を出せずにいる。 田舎にある我が家の庭は田舎なりの規模があって、ちょっと部屋の模様替えをしようかという容易い決意では手を付けられない。芝刈りから始まって、雑然と生えた何十にも及ぶ観賞植物や四メ…
今朝は七時に起きた。 本当はもっと寝ていたかったんだけれど、ゆっくりできるこういう日に限って、散歩へ連れていけという催促がいやに大きく耳に響く。まるで私の生活指導係だ。今日が休みだと知っていて、昼過ぎまで寝ようという魂胆がバレているようだ。…
梅雨が来ました。梅雨が来ています。 梅雨が明けたら、与論島に行こうと思っています。与論島は、島の北から南、あるいは東から西への直線距離が五キロメートル程度しかない、小さな島らしいです。沖縄かと思ったら、鹿児島県らしいです。 そこへ、三泊四日…
おえっ初めて、シラフでえずいてしまった。同時に、全身に鳥肌が立つ。何十、何百もの羽アリが、玄関の照明を中心にグルグルと飛び周っていたのだ。 キッチンに向かう最中のことだった。廊下の突き当たりにある玄関に何気なく目をやると、私は本当に情けない…
扇風機に拳をぶつけて、「いてっ」と口走ってしまった。 三十余年生きてきてそんなことしか言えないなんて、なんてしょうもないんだ。たかがリアクション、されどリアクション。こういう時こそ、その人の知性が問われるのかもしれない。ちなみに沖縄では、何…
百人中何人がそうなのかはわからないけれども、私は陰毛が縮れているので、放電中のテスラコイルのような股間をしている。 毛色は黒だから、暗黒属性のスパークが木と巣を包んでいるような格好だ。昔は木の幹の周りにしか生えていなかったのに、放電は徐々に…
今日は、この時間まで何もしなかった。ある人は百キロ走っただろうし、ある人は結婚しただろうし、ある人は何億もの金を動かしただろう。そういう、歴史的な日に、私は何もしなかった。 よくない。非常によくない。手を継続的に動かしたのは食事を作った時と…
今週のお題「アイドルをつづる」 ちっちゃかっても乳首で遊べるし と、ダウンタウンの浜田雅功が言っていた。それが面白くて、だけど少し衝撃的だった。 浜田雅功がそういう主張めいたことを話すのは珍しい気がする。浜田雅功はお笑い芸人だけど、今はどちら…
その夜、私は河口を目指して歩いていた。なんのことはない。ちょうど海と川の繋がる辺りのコインパーキングに、車を駐車していたのだ。 「那覇」という、島の中枢でお酒を飲み交わし、帰路に向かう道中のこと。その川に釣り糸を垂らして、木製のベンチに腰掛…
我が家に霊が出た。 私は恐れおののののいてすぐさま高名な霊能者を呼んだ。高名な霊能者というのはただの巧妙な霊能者の場合もあるらしいので、果たしてその人が有能なのかは今のところまだわからない。 「霊ですとな」 霊能者はその日の内に訪れて、我が家…
「ひえー!」 私は思わずそう口走ってしまった。 マサトシが「やりたい事が百個ある」と言ったからだ。 「お前!なんか怪しい宗教に入ったんじゃないだろうな!」 思わず口走る。「そんなんじゃないよ」 マサトシは余裕の笑みを浮かべた。 あの大谷翔平が書…